未来のピースができるまで④ 製造部門(後編)
野島 賢一(元品質保証部 部長)
相澤 毅(上席執行役員 管理本部副本部長)
望月 多賀雄(常務執行役員 生産本部本部長)
「未来のピースができるまで」では、当社がこれまでに生み出した“未来のピース”を取り上げていきます。ふだん知られることは少ないですが、当社は、世界に誇る日本発の未来の技術を開発しています。シリーズ第4回は、他にない有沢の技術と品質を実現する上で欠かせない、製造部門の品質向上の取り組みについて語ります。
そろそろ「昼市(ひるいち)」のお話をうかがいます。昼市はずいぶん昔からあったのですね。どう始まって、どんなふうに育っていったのですか?
相澤:1997年にトヨタ生産方式(TPS)の勉強を開始したのがきっかけだと聞いています。製造のプロセス改善が目的でトヨタ生産方式(TPS)の特別研究会が立ち上がり、当社では有沢プロダクティングシステムと命名し、略してAPS事務局が発足しました。社内でさまざまな活動がスタートし、昼市はその1つでした。昼市というのは、品質や生産性、トラブルなどの改善対策を翌日に回さず、その日のうちに対処する取り組みです。日々、前日の製造データをホワイトボードに書き出し、話し合っていました。製造部の管理者・監督者、製品の品質や生産性などに関連する品質保証部、製造技術部のメンバーなどが参加します。そして、この会議の特徴は、全員が立ったまま議論すること。会議が中だるみすることを防ぐためです。
野島:かつては全員が納得しないと、午後1時から始まって3時過ぎまで、ずっと立ったまま話し合っていました。現在では全社的に不良の数も少なくて落ち着いてきているため、それほど会議が長くなることはないですね。
望月:会議時間は長くても30分ほどです。今では、ホワイトボードではなく、過去の分析データを全てタッチパネルの画面で共有しています。これまでのデータベースとSPC(統計的品質管理)システムから日々上がってくるデータとリアルタイムに比較・分析できるので、かなり効率的に進められています。
昼市で幹部の人たちが、改善しましょうと言っても、実際にやるのは工場の現場の人たちです。現場の人たちにもこのような文化は浸透していますか?
相澤:品質や歩留まりが自分たちの問題だという意識はすごく浸透していると思います。自身の関係している製品が問題となっているかどうか、皆さんとても気にしていますね。昼市で話し合われたことは、常に掲示して公開しているので、何か問題や事故が起こっているかどうかを全員がいつでも把握できます。

働く人たちが意識をそろえていくことは、意外と難しいと思うのですが、浸透させるために努力や意識していることはありますか?
望月:例えば、かつてクリーン度がなぜか下がってしまうことがありました。もちろんクリーン度が下がると、製品歩留まりが落ちてきます。そういったデータは全員に共有されますので、現場の方もすぐに認識し、早急に対応策が検討されました。作業者のクリーンウェアの着方をビデオ撮影して、それぞれがばらばらな手順で着替えていることが分かり、ゴミが発生しづらい着替えの手順などを考えることになりました。
野島:ゴミやちりは、ブラックライトを当てることによってクリーンウェアの着脱時の発塵(はつじん)状況が可視化できる。実際にちりが巻き上がる映像を見せると、すごく説得力があります。言葉で「この順番で着替えなさい」と言っただけでは、やはり納得しないでしょう。データや映像を見せたりすることによって、説明力・説得力を強化するようにしています。
有沢製作所の品質を象徴するような、社内で言語化されているものはありますか?
野島:品質保証部としての品質方針があって、ポスターとして現場に掲示されています。「品質とはお客さんの立場に立って…」というようなポスターがいろんなところに貼ってあり目に入ります。それ以外にも社長の言葉で、「昨日より今日、今日より明日」というのが一番社員に浸透しているかもしれません。全ての従業員の生産活動に浸透していると思います

昼市は、抜きん出た有沢品質を支える独自の文化になっているのですね。
望月:社内会議のため、通常はお客さんに見てもらう機会はないのですが、以前ちょっとお客さんに見学していただいたことがあります。「すごい文化ですね」という言葉をいただきました。私たちにとっては当たり前になっていることですけどね。
野島:大手のお客さんがサプライヤーを監査する中で、「TPS活動はされていますか?」と聞いてくることがありました。「APSっていう活動を何十年も前からやっています」と答えたところ、「実はうちもやってないんですよ。今まででやっていますと答えた会社は有沢さんが初めてでした」と言われました。
相澤:当社が作るものは、材料が100あっても、その全てを製品にできないものばかりです。絶対に品質重視でやっていかないといけないと思っています。
製造部の強さとか、有沢製作所らしさに関してどのように思っていますか?
望月:原材料の品質にばらつきがあっても製品を作れるというところは、当社の強みだと思っています。どうしても原材料の品質は変わってくる。つまり、買ってくる材料が良かったり悪かったりするわけですね。それに対して柔軟に対応できるところが当社の強みだと思っています。長年やっていますので、ずっとやってきた知見をもとに、その場その場で改善できます。現場サイドでいろいろな対策をとることができるわけです。そこを柔軟に対応できるというのは、強さかなと。
組織の文化などでも、有沢製作所は違うと思うことはありますか?
野島:偏見かもしれませんが、この雪深い中に生まれ育った、上越人の根性の良さです。言葉は少ないけど、真面目な人が多いと思います。
望月:県外から来られたお客さまと会話する中で、「やはり新潟県の人は、我慢強いですね」といつも最初に言われます。私たちは現地に住んでいるのでそうは思いませんが、他の地域の人から見ると、そういう感じがあるみたいです。
次の100年に向けて、ARISAWA Innovation Centerが稼働しました。「未来の有沢製作所がこうなると良い」と思っていることがあれば教えてください。
野島:まず昼市は、絶対に未来永劫(えいごう)続けてほしいと思っています。皆が同じところに集まって、同じことを考える、職場のベクトルを合わせるのはすごく重要なことだと思います。もちろんそのためのやり方は進化するかもしれないし、簡略化できるかもしれないけど。昼市はやめないで、ずっと続けてほしいというのが私の願いですね。
相澤:昼市に関してですが、明日に課題を残さない、即断即決が重要です。当日にやるというのはもちろん続けていってほしい。あとは「駄目でもともと」という精神で、まず改善する、やってみるということを続けていってほしいですね。そのうえで駄目なことがあれば元に戻す、という当社の文化を未来にも継承してもらいたいなと。当社のものづくりに対する良い文化だと思いますので、必ず続けてください。会社を取り巻く環境は常に変化しています。高齢化の問題もある。脱炭素という問題もある。社会的課題が非常に多く、固定観念にとらわれることなく時代にマッチしていかなければならない。また先取りする形で、ものづくりもしていかないといけないし、仕事の内容も変えていかないといけないですね。良いところは残しつつ、時代にうまく乗っていかないといけないだろうと。それにはアンテナを張り続けることが必要です。当社の過去を見ると、有沢製作所は結構変わってきていますよね。作る製品も変わってきていますし。当社には変化に強い会社になってほしい。そのためにはやっぱり人が変わっていかないといけないなと感じています。
望月:昼市の市は市場の「市」と書きます。バザールという意味でね。ワイワイガヤガヤと話をする場としてあるわけです。やはり、いろんなところでコミュニケーションが必要だということに尽きると思います。データベースを活用するとか、やり方はどんどん変わっていくでしょうけど、みんなで集まる場はぜひとも続けてほしい。ワイワイガヤガヤと話せて、本当に何でも言える場になれば、1番良いのかなと思っています。未来については、当社の歴史や文化を見ても、「地域と共に」というところがとても大切だと思っています。今回この地域にARISAWA Innovation Centerができましたので、今後も「上越から、有沢製作所から」という言葉を前面に出してもらって、世界の舞台で頑張ってもらえればいいなという思いはすごくありますね。この地域から世界に向かって発信してもらいたい。(終)
