

有沢製作所ならではの3D技術・品質とは?
やめないでほしいと頼まれた、大手メーカーとの共同開発は今も続いているのでしょうか?
開発に苦労されたことなどをお話しいただければ。
浦:引き続きやっていますね。長年の関係で、担当者が変わっても相変わらずお互いに協業をしていきましょうという良い関係を継続しています。当時の苦労はいろいろあります。たとえば接着ですね。簡単に申し上げると、液晶ディスプレイを指で押すと色が変わりますね。3Dディスプレイは液晶パネルにXpol®(3D画像表示用フィルター)を貼って作るのですが、貼る際に強く押しすぎて白が白でなくなってしまうとか。そういう不具合を解決するのに苦労していたこともありました。当初はお客さんのこだわるディスプレイの画質をうまく表現できなくて。特に精密さが要求される医療用でもありますから、とにかく画質には厳しかったですね。
ただ、新しい市場を開拓するということは、そういうことなんだろうなと思います。他社がやらないことをやるから、販路が広がっていく。こだわりの強いお客さんにとことん愚直に付き合うこと、そのこだわりに応えることが、私たちの事業の成長につながっているのだと思っています。
なるほど。内視鏡の3Dディスプレイ市場は今後さらに成長していくと思われますか?
浦:内視鏡用ディスプレイのうち、3Dになっている割合は10%だと言われています。要するに、あと90%分の需要があるかもしれない。一方で、3D用のフィルターを供給できているのは有沢製作所だけです。だから世界中の内視鏡ディスプレイメーカーが、3D化を決めてくれれば、どんどん私たちは成長できるシステムです。さまざまな特許も含め、他社には決して真似のできない技術です。
お客さんと長く共同開発を続けていく中で、進化している技術や品質領域などはありますか?
浦:そうですね。例えば、共同開発するお客さんは有沢製作所のXpol®という技術に加え、それに伴う貼る技術や品質管理技術を評価してくれています。
3D品質と言いますかね。3Dとして立体感のある画像をしっかり出すためには、貼り合わせの技術と、前に貼る3Dフィルターの精度が必要になります。それらを組み合わせた上で、3Dディスプレイの品質・性能の評価をしっかり数値化する。その測定方法を私たちで全て仕上げ、規格を定めています。葭原さんは学会発表までしていますよ。
眼鏡なしで3Dが見える?光学技術が切り開くディスプレイの未来
3Dディスプレイ技術や、光学を使った新たな医療分野への挑戦はありますか?
佐藤:当社光学技術の1つに3DフィルターXpol®がありますが、そもそも光学分野に参入したのは、フレネルレンズ開発がきっかけとなりました。要するに、有沢製作所はレンズを作れるのです。UV樹脂の転写成型でレンズを作ることができます。UV樹脂は、紫外線を照射すると瞬時に固まります。型に紫外線樹脂を流し込んで、紫外線を当てて剥がすと、その型通りのものができ上がる。これがレンズになります。
それはすごい独自技術ですね。その技術は未来の製品開発に役立つのでしょうか。
佐藤:レンズなので、光を曲げることができますね。これを液晶ディスプレイの前面に貼ると、思いのまま光の向きを変えることもできます。今のXpol®は対になる偏光眼鏡が必要ですが、レンズの機能をうまく使ってあげれば、3D眼鏡なしで、裸眼で3D映像を見ることも可能になります。
今後、裸眼で3D映像が見える未来が来るかもしれませんね。
佐藤:ただし、現在はまだ研究開発段階で、2030年ぐらいを目指していますが。医療の将来を見据えたときに、3D眼鏡をかけることに抵抗のあるお医者さんがたくさんいらっしゃいます。煩わしいという意見も当然あります。だから近い将来には、3D眼鏡なしで3D映像を見られる部材の開発をしていきたいと考えています。お医者さんの負担を軽減できるし、手術の精度をより高めることができます。
例えば、手術をしているお医者さんの目の前の空間に心臓が3Dで浮いているとか…
浦:それは実際に、葭原さんが所属するカラーリンクというグループ会社で研究開発を手がけています。そういうARとか、VRとかの部材の検討を今まさしく進めていますね。偏光をコントロールする、細かな部材を眼鏡に組み込もうとしているから、小さくて軽くなければいけない。それを今まさに研究を進めているところです。
光学の未来、たとえばVRによる医療の未来に少し話を広げてもいいですか。こんな未来があるというお話を伺えたら。
浦:今、ロボティック手術という、ロボットが実際に手術する内視鏡手術が行われ始めています。ロボットが実際の執刀医の指先として動くものです。手術室脇のコックピットにいる医師が、内視鏡カメラで映し出した3D映像を見ながら指操作だけをする。医師の指先に付けているセンサー信号を感知したロボットが、患者さんのお腹の手術をするという技術が、近年だいぶ普及してきています。ロボティック手術ができることによって、医師不足の解消にもつながっていくと思っています。例えば、凄腕の医師がいたら、その医師の手術を受けたい海外の患者さんに、遠隔で手術できる。もちろん通信のタイムラグをなくす必要はあるわけですけど、その国に行かないと手術を受けられないということが、いずれはなくなっていく。
さらにこの先、高解像度でもっと鮮明な画像を見ながら手術をしたいときに8Kの3Dへの要求が必ず出てきます。そのときに、8Kは画素がものすごく小さくなるので、当社としては高解像度化していくための技術革新が必要だと考えています。現状では、手術中はカメラが患部を撮影しますが、引いたところから撮影して映像を拡大すると画質が落ちるので、カメラをかなり近づけて撮影しています。すると医師が鉗子操作をする際にカメラが邪魔になってしまうことがある。8Kになればこの問題も解決できるでしょう。
最後に、「未来のピース」を生み出し続けてきた有沢製作所の「DNA」、「らしさ」はどんな点でしょうか?
佐藤:私が会社に入ったときの新入社員教育担当が葭原さんです。当時、葭原さんはいろんな技術課題に直面していましたが、一つ一つ粘り強く、諦めずに取り組んでいました。横で見ていて、さすがにこれは解決できないだろうとか、もう駄目なんじゃないかと思うことが何度もありました。でも最後にはそれを解決しているのですよ。しかも明るく楽しそうに。
浦:私も入社したときのグループリーダーが葭原さんです。当時、「全ての物事に対して興味を持ちなさい。自分の業務の範囲以外のところにも興味を持ちなさい。そこから仕事の幅がきっと広がるはずだから。そして何かやりたいと思ったことがあればやったらいいし、好きなことをどんどんやりなさい」と教わりました。その言葉が、今の自分の姿勢になっていると思っています。
佐藤:今でも名刺ケースに偏光板が入っています。いつでもこうやって実物を見せて説明できるように。やっぱり興味があるから(笑)。売上がなくて苦しい時期が長くありましたけど、好きだからやってこられたって思います。
葭原:毎日8時間も会社にいるわけです。それが楽しい時間なのか、つらい時間なのかによっては人生変わりますよね。そう考えるとやっぱり、好きなことをやらないともったいないですね。
(終)